泉田良輔のブログ

テクノロジーアナリストの100%私見

2015年、メディアとそのデザイン&エンジニアリングについて考えてみた。有料vsPV狙いの広告モデルを超えて

メディアとしてやはり一番なのは、情報のスクリーニング機能とオピニオン機能だという考えが益々深くなってきている。突き詰めるとそれしかないとも考えている。

 

ネットの普及で、入手可能な情報量も急激に増え、そこへのアクセスコストも断然安くなった。そしてそのトレンドは今後も続くと思う。

 

ところが、情報は集まるのだけれども、何かの意思決定に絡むような有益な情報、つまり分析やオピニオンがしっかりと含まれているインテリジェンスが手に入るかというとそうではない。

 

以前は本というメディアが信頼足るメディアだった。書き手がいて、編集者のスクリーニング機能が十分に機能していたからだ。ところが、出版業界の状況もあるのだろうか、個人的意見だが、書籍の質を犠牲にしながら、数量を求める傾向にもあるようなので、むしろ昔よりもインテリジェンスを入手するのは難しく、手間ひまのかかる作業になったかもしれない。結果として、情報入手という環境は整備され便利にはなる一方、情報のキュレーションの必要性が叫ばれてきたわけだ

 

ところが、キュレーションは、誰にでもできる訳ではないし、優秀な人がすべての情報に目を通せる訳でもない。ある意味、キュレーション自体が有限のリソースという訳だ。

 

美術品にキュレーターがいるのは、歴史とともに作品数が増え、贋作もある中、キュレーターが必要であるからだ。また、それは高価な値がつく作品を中心に調査をすれば良い=>結果として評価しなければならない数が限られる?ので、ビジネスとしては成立するのだろうか。美術のキュレーターに関してはどこかで一度インタビューしてみたい。さて、こと情報に関してはお金の出し手とその調査の対象は曖昧なのが厄介なところだ。

 

ただ、美術のキュレーターに関しても万人に必要という訳ではない。美術に興味がない人には、終世美術のキュレーションには関係ない人かもしれない。その意味では、情報も関係ない人には関係なく、(インサイトのない)情報を見ても何か幸せになったり学びになる情報であればそれで良いかもしれない。贋作でも、(所有者にとって)美しく意味のあるものも存在するであろう。つまり、キュレーションは、究極的にはオフィシャルなものでは意味があって、プライベートなものには関連性が弱いということだろうか。

 

メディアは、キュレーションとオピニオンの有無が判断基準と述べたが、個人的には、接点の多いメディアが良いメディアだと思っている。興味がある人がその興味のあるメディアと接するのは当然なのであるが、そうでなかった人も何らかしらの接点があり、はじめて接する機会を持てることができれば、それは一つメディアの役割としては果たしたということだと思う。

 

同じコンテンツを見ても、人によっては意見が違うし、その反応も異なる。したがって、興味にある人だけが読んでくれればよいと考えるのでは、メディアは自分の枠を自分で決めてしまい、メディア自体の変化の可能性を消してしまいかねない

 

その意味で、ある程度のクローズド感とある程度のオープン感の絶妙なバランスをメディアデザインとしては必要なのであろう。 メディアのクローズともしくはオープン戦略は、事業モデルにも直結する内容なので、メディアデザインと経営はほぼ同義であると考えているが、正直こうした議論はこれまであまり見てきたことがない。有料か無料か、コンテンツ売りかPV狙いの広告モデルという議論しか目にすることがない。というとハイブリッドモデルがあるだろうという答えが返ってくるが実はそれは妥協案にすぎない。その2項対立議論を超えて、新しいモデルが必要だし、その兆候もある。

 

さて、私は、編集が効いていないものはメディアではないと考えている。それは、一つのコンテンツに限ってもそうであるし、コンテンツの集合体についても同様である。単純にいろいろな人が好き勝手なことを言っているのは掲示板である。一方、仮にそこに、キュレーションやガイドが入ればメディアである。

 

こう書いていることからもお分かりだろうが、メディアは世の中の一部をある一定の観点から切ったものだ。したがって、メディアにバイアスがあるのはある種当然といえる。

 

情報に対して、キュレーションとオピニオンがあって、バイアスを排除しきるというのは難しいであろう。つまりメディアとは誰かの世界観であって、その世界観を共有できる人が愛読者となり、その世界観を共有できない人でも興味があればそれは、メディアのキャラがたっているということができる。

 

先ほどメディアには接点が重要と述べたが、ここに必要なのはデザインとその画を実現するためのエンジニアリングだ。

 

メディアは、世の中の一部を切り出したシステムである。つまり、システムの目的を果たすためには、エンジニアリングが必要である。メディアの目的は、鉄道のように「A地点からB地点にものを運ぶ」というものではなく、もう少し対象とその結果が曖昧だ。したがって、より事前に想定しなければならないことが多い点が難しい

 

メディアエンジニアリングの方法論は、明文化されたものはないが、どういった対象が、どのようなスタイル(有料か無料か)でほしがっているかにも大きく左右される。また、新スタイルのメディアの在り方が確立されれば、そのスタイルも変わってくる。

 

メディアはクローズドで読ませたい人だけに読ませれば良いと考えていると、エンジニアリングも簡単であるが、より多くの接点を増やすということを考えれば、エンジニアリングは非常に複雑になる。要はそこが楽しめるか、そうでないかというところが重要だ。

 

メディアというのは、人間の営みの縮図の気がしてきた。

 

2014年は音というユーザインテーフェース元年だったような気がする。2014年の買い物を振り返る

アップルのiPhoneもUIが変わらず、そろそろみんな冷たいタッチパネルに飽きている。

そこで新たなUIが工夫されているが、音声認識もいまいち。

それでも、次はまだみんな音声だと思っている。

 

インターフェースといっても、インプットとアウトプットの両方がある。

2014年はアウトプットの音は相当伸びたんではないだろうか。

家電の小売店を見れば一目瞭然。

 

今年は、執筆作業を支えてくれるグッズを買いそろえたが、結局これが良かった。

はじめてのBoseなのだが、Bluetooth接続を店頭で試したが、Boseが良かった。

ソニーのXシリーズも試したが、いまいちうまく接続いかず、断念。

ソニーの方が安くて、どうかなと思ったが。

 そして、外ではこれ。

はっきりいって、ブランド買いした感じ。

アップルが興味あるとなれば、自然と興味がわく。

まあ、いい音ということなんだけれども、使用時間は↑の方が断然長い。

 ということで、次はやはり音かなと。注目。

マスターキートンがインテリジェンスの原点なんですよね。ベタではありますが

 

 

昔、熱心に読んでいたマスターキートンが久々に新刊「MASTERキートン Reマスター」 がでた。

そこで、買って読んでみた。

相変わらず面白い。

 

学生時代に読んでいた時は、欧州の歴史の話とともに世界情勢の掛けあわせが面白かった。

大学院ではインテリジェンスを専門に勉強したが、原点はマスターキートンの気がする。

自分のはじめの就職先が保険会社であったというのも、偶然でない気がする。

Master Keatonはロイズのオプという設定。

私自身、その仕事に就いたことはないが、学生当時はロイズって何?思ったものだ。

オックスフォード大学ベリオールコレッジ校卒業の修士。博士号はない。

ここもようやく同じレベルにまで来たw

 

相変わらず、ストーリーをつくっている長崎尚志氏はすごいなと。

以前は何やらクレジットでもめていた話を聞くが、昔も今回も質は変わらないと思う。

漫画の良いところは、ストーリーにメッセージを埋め込めるところ。

今回もなにやらいろいろ考えさせられるメッセージがあちこちに。

太一(キートンのこと)が夢をかなえた人の本を読んで出た結論が、

あきらめなければ、人は絶対夢をかなえられるって。 

 あと、キートンフォークランド紛争に参加したことになっているが、その時の同僚がキートンに語りかえるセリフ

戦争は、頭の中の羅針盤を狂わせる。 

 多くの人に読まれる本というのは、色々な人との接点を盛り込んだものなのかもしれないと。

それにしても、しっかりと練られないと読め続けられることはないとは思うが。

いずれにしても楽しい読書タイムでした。感謝。

ちょっと前になりますが、"日経Automotive Technology"主催のセミナーで登壇しました。Googleの狙いは何か。

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2014年12月8日に、日経Automotive Technology主催の「自動車産業、今後10年のリスクを見極める」で登壇しました。

電機産業の失敗から、Googleの次の一手、日本の自動車メーカーはビジネスモデルをどのように構築するべきかを語ってます。

LongineがKindleで本を出しました「2015年株式投資テーマと注目銘柄がすぐわかる業界別解説」Navigator Platform Publishing

 

 

個人投資家向け経済メディア, Longineがキンドルで出版しました

内容は2015年の株式投資テーマについてです。

電機、自動車、金融、機械、小売りセクターの産業動向と注目銘柄が中心です。

ロンジンをお読みいただいていない方にも是非ふれていただきたいということで、出版してみました。

※当書の内容は、既にLongineサイト内で公開した記事を編集しなおしたものです。ご購入前にご確認ください。

引き続き、長期を見据えた投資に必要な情報を求める個人投資家向け経済メディアLongineをよろしくお願いいたします。

「Google vs トヨタ 『自動運転車』は始まりにすぎない」をKADOKAWAから出版します

2014年12月10日に、タイトル通りの本をKADOKAWAさんから出版します。

構想1年、その間関係者に取材を続け、ようやく出来上がりました。

取材など、ご協力いただきました皆様に感謝です。

なぜGoogle vs トヨタなのか

  

今回は、世界の産業についての未来予想図として構成しています。

前作「日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか」 は産業の歴史を追いました。

上梓後、「自動車産業の未来はどうなるのか?そちらの方が知りたい」という声が多かったです。

ということで、今回のテーマは未来です。

自動車産業の未来を考えると、自動運転システム領域における異種格闘技戦の様相を呈するという姿が見えてきます。

これまでの自動車産業の競争のルールは大きく変わらざるを得ません。

自動運転システムの競争のルールを理解する 

その競争のルールを理解するためのキーワードは、ハード、ICT、エネルギー。

このキーワードを組合わせて、世界の巨大なプレーヤーが壮大な競争を仕掛けます。

グーグル、トヨタ、アマゾン、フェイスブック、テスラ・・・。

多くの企業が登場し、かれらの異種格闘技戦が都市を舞台に繰り広げられます。

ご興味があれば、是非!

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システムズエンジニアリングの対象は一部か、何をエンジニアリングをするのか:Friedenthal "システムズモデリング言語SysML"

 

 

大学院で頭に残っているのは、機会学会で有名な先生に当本に関していわれた次のような言葉だ。

システムズエンジニアリングを理解するために、「システムズモデリング言語SysML」の1−3章は必ず理解しておくこと 

 という言葉である。

そこで、1−3章をじっくり読んでみた。

システムズエンジニアリングは、…SOS, system of systems, やエンタープライズとも呼ばれる、より大きな全体の中の一部としてシステムを扱うことに重点が置かれている。

つまり、システムズエンジニアリングは全体は語っていないということになる。

システムを扱いながらも、必ずしも全体を俯瞰していないということもある。

システムズエンジニアリングは万能ではないということである。

システムデザイン > システムエンジニアリング ということである。

システムの目的を考えるのは次元が違うということである。

 

システムズエンジニアリングは、もともと航空宇宙・軍需産業で広く使われ発展した。

これらのシステムには、陸・海・空ベース、および宇宙ベースのプラットフォームを含み、兵器システムや、指揮、統制、および通信システム、物流システムなどがある。

各機能の発展はシステムズエンジニアリングが担う。

軍事という目的がはっきりしている場合には話が早い。

したがって、システムズエンジニアリングが発展する環境が一度に整うことになる。

この本もロッキードマーティンの主任システムエンジニアだ。

 

システムズエンジニアリングの民間需要についてのコメントもある。

他の産業部門で開発されているシステムは、競争的需要と技術的進歩のために複雑さが劇的に増加している。

バリューチェーンの設計とその運用にシステムズエンジニアリングは活用できる。

PLやBSはその結果を示したものである。

しかし、そのプロセスをシミュレーションするレベルのものはどうであろうか。

ここが問題。

システムダイナミックスのようなものがあるが、実務レベルで使えるレベルではない。

さて。

 

マイケル・モー「10倍株投資の実践理論 明日のスターバックスを発掘する方法」ダイヤモンド社

原題は、Finding The Next Starbucks。ということで、10倍株なんてキーワードはない。

ちなみに、10倍株、テンバガーはフィデリティのピーター・リンチが名付け親。

ピーター・リンチは、Fidelity Investments の伝説のファンドマネージャーだ。

そのピーター・リンチに執筆寺にアドバイスをもらったようで、このタイトルらしい。確かに、本の帯もピーター・リンチ絶賛となっている。

小型株投資で成功するためには

内容は小型株投資で成功するためにはというアプローチが記載されている。

極めてオーソドックスで、ヘッジファンドでゴリゴリ回転させる人には向かない。

ただ、内容の随所随所は、極めて同意できるポイントがたくさんある。

高いEPS成長率+期待を超える業績=超勝ち馬 

小型株投資に限らず、株式投資で結果が出る必勝パターンはこれだ。

日本の株式市場は循環相場だが

残念ながら日本の株式市場は循環相場であった。

しかし、上の条件に当てはまる銘柄がなかった訳ではない。

全体がダメだから、個別もダメと捨てるのは実にもったいない。

そのスタンスというのは投資家としてはどうかしていると思う。

発掘した少数の銘柄を管理すればよいので、それで良いではないか。 

長期投資は儲からないと嘆く人も多いが、長期投資の効果を実感できるのはやはり複利。

複利は世界の七不思議に次ぐ八番目の不思議である。ーアルバート・アインシュタイン 

 ということで、勝ち馬を見つけることができたら、驚異的なパフォーマンスが享受できる機会があるということだ。

逆も真なりであるが、それが長期投資の本質で、長期投資はツールである。

みんなが既に知っている銘柄も爆謄する不思議さ 

私も実は米株運用でスターバックスの担当をしたことがある。

当時スターバックスも日本に進出しており、まあみんなが知らない銘柄でもなかった。

それでも、10数年過ぎて株価を振り返ると株価はとんでもなく上昇している。

小売りは一度稼げる仕組みを確立し、拡大するフェーズに入ると恐ろしい。

モー氏がタイトルにスタバを持ってきた気持ちは分かる。

銘柄調査の神髄 

それと、銘柄発掘の際の証券会社の立ち位置は日本も米国も変らないことをこの本は教えてくれる。

それに、実はぼくがこの本を書いている理由がそもそもこれだけなんだけれどもー明日の勝ち馬に投資しようと思っているのならウォール街の出すレポートなんかよんでいてもダメだからだ。 

 まあ、自分がウォール街にいたので、よくわかるのだろう。

アメリカのナノキャップ(時価総額50億円)未満の株式766銘柄のうち、アナリストがカバーしているのはほんの126銘柄(16%)に過ぎない。マイクロキャップ(時価総額50から250億円)だとアナリストのカバレッジ率は58%に上がるけれど、それでもまだ650社のマイクロキャップがカバーもされずに放っておかれている。それらを合わせると、アナリストがカバーしていない企業が1300社あり、これは全銘柄の20%に上る。

 こうした状況は、日本も同じ。

カバーされている銘柄の方がそうでない企業より多い。

したがって、個人投資家は、ビックキャップを相手にするよりは、小型株がベター。

情報のエッジがある方を選択するのがよい。

これは情報の捉え方の話だ。

投資アイディアは、ほとんど情報と洞察力がすべてなり。情報に価値があるのは他人に知られていないときだ。洞察力に価値があるのはそんな情報の意味が分かるときだ。

人間の洞察力は、一部の帆とを除きそれほど優位な差はないと考えると、情報をどうあつめるか。

こうした観点から、ピーター・リンチもフィデリティの山下裕士相談役も町に足を運ぶということになる。

【私の運用報告書(1)-フィデリティ投信元ファンドマネージャー(現相談役)山下裕士 × Longine 泉田良輔
を参照のこと

プロも個人投資家も調査の前には平等だということだ。

常に、情報のエッジを求め、そこに分析を加えれば、自分だけの投資アイディアだ。

 

テーマ投資とセクター投資の違いとは。セクター投資を個人投資家に求めるのは難しい

結論から言うと、セクター投資それができるなら日本に個別株をがんばる個人がいっぱいいるはずだという循環論になる。ちなみにセクター(別)投資とテーマ(別)投資とでは意味合いが異なるのでそのあたりも見ていこう。【2017年8月29日更新】

セクター投資とテーマ投資の違いとは

セクター(別)投資とは、たとえば東証33業種(ただ分類され過ぎている)や MSCIの分類など企業が属する産業ごとに区分して投資をするアプローチのこと。

一方、テーマ(別)投資というのは、今でいえば、ロボット、ドローンやAIというように株式投資をする際のテーマに準じた投資アプローチのこと。

どちらがよくて悪いかという議論をする人がいるが、それは違う。

セクターローテーションを考えるのは機関投資家の仕事

機関投資家レベルでも日常的に議論されているのは、セクター投資の方。機関投資家もセクターローテーションというように、景気循環の中で保有セクターの持ち分を意識しながら調整をしている。

小型のマネージャーはいつもテーマを探してる

とはいえ、小型株のファンドマネージャーなどは常にテーマを探している。そのテーマというのは、一言でいえば、「産業構造を変えるテーマ」。構造を変えるテーマなので、毎日のように話題が出てくるはずもなく、長期的なスタンスでテーマを探す。

もっとも、テーマのない投資を探す方が難しい。

グロース or バリューも立派なテーマ

たとえば、グロースやバリューといった企業の利益成長率や株価のバリュエーションといった基準でのスタイルもファンドマネージャーからすれば広義のテーマといえる。

「バリューの方がグロースより絶対もうかる」というのはバリューマネージャーからすれば信仰に近いようなものだし、自分の運用のテーマそのものだからである。

インデックスファンドにもテーマはある

もっというと、株式のインデックスファンドを買うのも、投資かは知らず知らずテーマを追っている。

それは何かというと

「経済は成長する」

というテーマだ。

最近、世界株のインデックスファンドを推奨する向きが多いが、それは「世界経済は拡大する。それに伴って株価も上昇する」というロジックを信じているということになる。でないと、株式のインデックスファンドを買う意味合いは薄い。

もっとも、循環株であるTOPIXのインデックスファンドを買うというのはトレーディングをするという前提をする上では賛成であるが、長期で…というのは疑問だ。

セクター別投資は個人投資家に向くのか

 セクター別投資をうたっている本があったので、読んでみた。

以下、読後の感想と指摘事項。

内容そのものと本名?ペンネーム?

この本のイマイチなのは、経歴を見ると投資経験が長いのは良いが基本的理解が怪しいことだ。

そもそもこの執筆者の名前は本名か?ペンネームか?少なくとも私は彼らの名前は聞いたことがない。存じ上げない。

たとえば、以下の様な記述をみて、どう思うだろうか。

長期投資に関しては、ここ20年来、相場に勝てていないのが現実だ。

それは、日本株式市場が循環株式市場だったから。

まあ、大きく言えば、日本経済が成長していなかったからだ。

日本に生まれたことを恨むよりほかないが、今は世界に投資をすることができる。

彼らの話は、日本株に限定した話としては正しい。それ以外では、真ではない。

長期保有が投資のカギなのではなく、銘柄選択がポイントである。 

 長期投資を推奨する方も長期で投資をすれば儲かるのではなく、銘柄選択をし、成功した際に長期で持っていれば非常に大きなリターンがあるということと同時に、長期で個別株と向かい合えば、いろいろなチャンスがあるよと言っているだけである。

つまり、銘柄選択がスタートでの長期投資である。もともとの問題定義をすり替えている。ミスリード。

後講釈ならなんとでも言える 

いやー、これはすべてに言えること。

個別銘柄選択に限らず、セクター投資でも同じでしょ。

セクター情報は本書だけでは物足りない

あと、この本の業界ごとのデータを基に勉強しても足りない。

電機セクターを見たけれど、この程度の情報ではセクターコールでエッジはない。うっかり手を出すとやられるのがおちだ。

運用でエッジを出せる領域とは

一般的に、個別銘柄ピック、セクターコール、マクロベットという順に自己調査によるエッジが少なくなる。

つまり、誰でも勝手に言える部分が増える。

あたることもあるし、あたらぬこともある。

そして、その根拠も曖昧になる。

自身の情報のエッジがなくなることとほぼ同義である。

セクター投資は投資としてはありだが、投資家としてのエッジを薄めて勝負する?

一時的なさや取りはありとして、果たして継続的に勝てるかどうか…

 投資家は自分が勝負して、一番勝機のあるところで勝負するのが基本。

イチローだって、すべてのたまに手は出さないだろう。

バフェットの投資は実績というテーマ

バフェットは、どうか。

バフェットはビジネスモデルに投資をしているというが、スタートポイントは過去の実績だ。それに歴史が重要だ。

実績に基づいて、その背景は何かというアプローチでビジネスモデルを研究している。

ビジネスモデルありきではない。

www.kabu-1.jp

海外ではセクターファンドはメジャーで巨大 

少し目線を海外に拡げてみる。

実は、米国ではセクターファンドに巨大なファンドがごろごろしている。

加えてセクターファンドの投資信託の品ぞろえも充実している。

フィデリティにも優良なセクターファンドとそのマネージャーが存在する。

実はセクターファンドのファンドマネージャーの方がダイバーシファイドのファンドマネージャーよりも優秀と言えるかもしれない。彼らはそれこそスペシャリストであるからだ。

一方、日本にはセクターファンドの品揃えが少ない。供給サイドの問題もある。

テーマ投資に冷ややかな日本

NIKKEI STYLEにも書かれているが、これまでの日本のテーマ投資の印象は良くない。

style.nikkei.com

それもそのはず。

株式市場で話題の熱量の高い内容と関連銘柄を組み込んだファンドを売り出してきたからだ。

ただ、上でも言ったように、そうした「狭義」のテーマの是非はともかくとして、広義のテーマ、特に産業構造を変えるようなテーマはどの投資かも垂涎の的だ。

「テーマだからいかがわしい」というのでは、せっかくの投資チャンスも逃してしまう。

そのあたり、ジム・クレーマーなんかはすごくバランス感覚が良いコメントをしている。クレーマーは「全米No.1投資指南役ジム・クレイマーの株式投資大作戦」の中で、「ブームや人気を利用しない手はない」というパラグラフで、以下の様に言っている。

私が合法的な方法で投機を使って皆さんを金持ちにできるのなら、たとえそれがアカデミックな教えに反するやり方だと非難されても、全く意に介しないでやり通してほしい。

投資を良く知っている人は確信犯的に株式市場の熱量を利用する。

興味のある人は、ジム・クレーマーの著書はおすすめ。

まとめ 

散々パラ書いてきたが、投資は自分で特異な領域で勝負すればいいだけの話なので、個別企業分析でもよいし、テーマに目鼻が効くのならそれでも良いし、セクターローテーションが分かっているのならそれでも良い。

何が正しくて、何が間違っているというのは、アプローチの幅を狭めること自体、得策ではない。

あわせて読みたい

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この本はすごい:マイケル・クローガー「ポール・ランド、デザインの授業」BNN

 

 

ポール・ランドがデザインしたロゴを見たことをない人はほとんどいないと思う。

IBM, abc, UPS, NeXT, ウエスティングハウス...

このネームを見てしまうとアメリカをブランディングしてしまったとも言える。

 

日本のデザイナーがビジネスモデルに踏み込めないのは指摘した。

ただ、この本を読むと卓越した人は見切っているなぁと感心した次第。

この本の翻訳がいまいちなので、ところどころ出てくる英語のフレーズが刺さる。

Everything is design. Everything!

そう、すべてはデザイン。見えるもの、見えないものもデザインされるべき。

Design is also a system of propotions, which means the relationship of sizes. 

 デザインをシステムと看破しているところですべての決着がついている。

デザインはメリハリ。

すべてがのっぺりしているのはデザインとは言わない。

これはバリューチェーン、ビジネスモデルも同じだ。

Design is relationships. Design is a relationshipbetween form and content. 

 このことばはこの本のすべて。

原著が読みたくなった。

 

そろそろ「デザイナー」に語らせる「デザイン戦略」は終わりにした方がいい。これでは日本は間違え続ける

日本でデザインというと見た目の話がほとんど。

でも、それは大変残念な話。

「デザイン戦略」を語る人もいわゆる美大出身の「デザイナー」がほとんど。

それでは「くくり」が狭すぎるし、実は全体の一部しか語っていない。

 

今、日本企業に本当に必要なデザインはビジネスモデルをデザインすること・人。

 

見た目のデザインは、ビジネスモデルの一部に過ぎない。

いわゆる「デザイナー」でビジネスモデルにまで踏み込める人は稀だろう。

アップルだってグーグルも見た目の「デザイン」であそこまで大きくなったわけではない。

裏側の管理の仕組みとその運用は複雑であり、まねできない。

それが競争優位になっている。

見た目の「デザイン」なんかよりもマネをするのが難しい。

 

アップルが大きくなったのは鬼のようなキャッシュフローの管理のなせる業だ。

ジョブズがなぜティムを選んだかを分かればすべてが理解できる。

ティムは調達・購買の専門家だ。デザイナーではない。

ジョブズはティムを選んだ。

見た目のデザインあってのビジネスモデルではない。

どんなにクールでもカネを回さなければ事業を継続できない。

 

ビジネスモデルも、更に次元アップすれば別の呼び方の方が良いかもしれない。

壮大な話であれば、アーキテクチャーと呼んでもよいかもしれない。

アーキテクチャーは設計者であって、細かなモノづくりをする職人ではない。

 

ただ、いわゆる「デザイナー」という人たちも惜しいところまではいっている。

デザイナーがどこまで考えることができているのか知りたくて、色々読んでみた。

 

 

たとえば、上の本は、ブランド構築、広報・広告、販促活動までは言及できている。

この本では「ポジション」などにも言及できているので、戦略の概念はある。

ただし、そこまでだ。

ビジネスモデルには言及できていない。

売上も、コストも、利益も、バリューチェーンの話も何もない。

これでは、広報だけを専門にしている顧客は納得しても、経営者は納得しない。

そういうものだ。

 

一方、アナリストが「デザイン」を取り込んで分析できるかといえば、できない。

会計がシステムであることを理解はしているだろうが、俯瞰してみれない。

ビジネスモデルが、バリューチェーンを組合わせたものだという認識も不十分。

 

どこを見ても、ビジネスモデル・デザイナーがいない。

 

個人投資家やIRには必読の本。フィデリティのアンソニー・ボルトン「カリスマ・ファンド・マネージャーの投資極意」

 アンソニーは、個人的には同じくフィデリティのピーター・リンチよりもすごい運用者と思う。長期に渡ってパフォーマンスが出ているだけではなく、個人的にも話をしたり、アンソニーのホストするミーティングにも出たことがあるが人物も素晴らしい。社内外の人に尊敬される人物だ。古き良き英国の紳士。

 >>カリスマ・ファンド・マネージャーの投資極意

アンソニーの投資哲学解説書

さてそのアンソニーが本を出している(発音はアントニーというのが自然)

はじめ見た時は、なぜアントニーが本を出すのかなと思った。

中を読めばわかるが、自分が欧州のファンドを引き継ぐタイミングで書かれている。

自分の投資スタイルと過去の体験に加えて、自分のファンドを引き継ぐ運用者の解説つきだ。

Investing with Anthony Bolton

元のタイトルは、Investing with Anthony Bolton

実は、当の本人が書いているのは、1章と4章のみ。

まあ、2章しかないとみるか、2章分と見るかは人次第。

私は2章もという感じだ。

個人投資家はすべからく目を通すべき内容だと思う。

IRの人も、一度読んでみれば(1と4章だけでよい)、本当に優れた運用者は何に興味があるのか理解できると思う。

日本の機関投資家の水準とはえらく違うのに驚くはず。 

アントニーのアプローチはこうだ。極めてオーソドックスである。

基本は取材を大事にするー多くの運用者やアナリストが忘れた基本。

社内の人間だけではなく、社外のネットワークも大事にしている。これは社内(アナリストといった)リソースだけでは足りないという意味。

耳の痛い人もいるだろう。

証券会社のいわゆるセルサイドアナリストもコンセンサスに影響のあるアナリストに会う。

証券アナリストのレポートには本当に大事なことは書いてない…という本質。

ベンチマークなんて関係ない 

運用の際には、ベンチマークを意識していないとも。

これは普通の運用者には難しい。

こうしたこともあって、年金運用は面倒だといっている。

失敗した投資にだけ、細かく突っ込まれるからと。

その点投資信託はいいといっている(ここまでのびのびといってもよいのか?!)

大事なこといくつか 

個人投資家が一番注目すべき点。

投資というのは一種の賭けです。…誰もがミスを相手より少なくするよう頑張っています。

つまり、一部の投資でシコっても、それを前提として運用に臨めと。

パフォーマンスの出し方についても、バフェットに共感している模様。

私のアプローチの核心は、ウォーレン・バフェトとそのパートナーであるチャーリー・マンガーが「恒常的に年率12%を目指すよりは、長期的に平均して年率15%収益を上げたい」と言った言葉に要約されています。 

時間を味方につけるという意味です。

スペシャル・シチュエーションとは

アントニーからはじめて「スペシャル・シチュエーション」というコンセプトを教わりました。

スペシャルシチュエーションとは、会社が有事にあるということです。

その有事とは次の通り。「株は変化が一番儲かる」という運用者がいましたが、ほとんどそれですね。

  • 回復の見込みのある会社
  • 大きな成長が期待できる会社
  • その価値を一般的に認められていない資産を持つ会社
  • 特別なニッチ市場に特化した製品を持ち、良好な収益が期待できる会社
  • 買収される可能性がある会社
  • 再編、または経営陣が交代する可能性のある会社
  • 証券会社の間であまり調査されていない会社

上の条件にも含まれる項目が多いが、バリュー投資がアントニーはお好みだ。

そのバリューが認められるきっかけを待ちながら銘柄調査をする。

稲垣栄洋「弱者の戦略」:動植物の世界の競争は人間と同じことが分かる

 

久しぶりに、考えさせる本だ。

動植物の生存競争、つまり戦略について示唆に富む。

著者も、企業もしくは戦略に興味があるので、読みやすい。

今、私たちのまわりにいるすべての生き物たちは、自然界を生き抜いているという点で、どれもが「成功者」である。 

 これは、最近特に実感する。存在していることだけで、すばらしい。

生物にとって、もっとも重要なことは何か。・・・生き残ることである。 

 すべてそうである。大きな会社になると、結構忘れがちになる。

「生き残った者が強い」 

 ベッケンバウワーがそう言ったらしい。

「強いものは単純に。弱いものは複雑に」これは勝負の鉄則なのである。 

 人間界の強いものも恣意的に複雑にする。アップルとか。これは手ごわい。

「ずらす」ことは、実に秀逸な戦略である。「ずらす」戦略は、じつに複雑である。・・・「ずらす」ためには、知恵と工夫が必要なのである。 

 ずらす。これはあらゆる点において、究極のテーマ。

すべての生物はオンリー1で、ナンバー1しか生きられない 

 でしょう。

「ずらす」ということは、他の生物がナンバー1になれない場所を探し、自分がナンバー1になる自分の居場所を「探す」ことである。 

 なるほど。

ニッチとはナンバー1になれる場所である。 

 他にもいろいろと有益な、示唆に富む本。

 

Jour・Analyst、ジャーアナリストを設計する:証券アナリストという職業の分解と統合をして生まれる新スタイル

最近、証券アナリストとジャーナリストという職業の違いを考える機会が多い。

証券アナリストが参画するLongineという経済メディアを運営しているからだ。
日経BizGate、NewsPicksのような経済メディアに寄稿することも増えてきたからもある。

そもそも、証券アナリストという職業はどういった職業なんだろうか。

個人的経験から、以下のように分解できる。

  • 産業分析
  • 企業分析
  • 企業価値分析(バリュエーション)

の3つができて、はじめて証券アナリストと呼べると思う。

実際の資産運用の世界では、上の3つに加えて、次の要素が重要になる。

  • 投資判断
  • シナリオ構築

投資判断は、通常、市場価格とバリュエーションにより決まることが多い。
しかし、一概にもそうとは言えない。
バリュエーションの結果、割安とおもっても大抵何か理由があると考えるのが自然だ。
流動性のない株を除いては、株式市場はそれほど非効率的ではない。
割安に放置されている理由は、企業や産業の歴史にあることが多い。
たとえば、経営のトラックレコード、経営者の資質といったものだ。

また、株式市場の「空気」も影響する。
将来、景気が崩れそうであれば、景気敏感な株が避けられ、ディフェンシブな銘柄が好まれる。
安部政権が内需刺激策により、長期的な成長性がなくても内需どっぷりの銘柄も好まれる。
いわゆる、マクロ経済見通しによるセクターベット、アロケーションと呼ばれるスタイルである。
これは運用しながら株式市場と対話をしながら学習していく質のものである。

投資は思うように行かないことが多い。
自分の想定と違うことが起きたときにどのように軌道修正できるかも重要だ。
したがって、投資対象に対して、シナリオを複数持てることも重要な要素だ。
シナリオごとの投資判断もあるのも自然だが、実際にはそこまでできる人は少ない。

こうしたサブシステムとも呼べるエッセンスがアナリストに必要な資質だ。

アナリストに短期的な株価予想や経営アドバイスを求めるのはバウンダリー外だということが分かる。

もちろん、トレード発想力のあるアナリストや経営センスのあるアナリストもいる。
しかし、それはアナリストが育てられてきたという結果ではない。
何度も言うが、それはバウンダリー外にある要素で、極めて個人的な資質によるものだ。

一方、ジャーナリストはどのように仕事を分解できるのだろうか。

これまで接してきたサンプル数が少ないため、どうやら誤解していたようである。
ジャーナリストはストーリーを求めるそうである。
以前は、ジャーナリストは、事実だけを報道していると考えていた。

一目置いているジャーナリストに聞いてみた。
彼は「そんなアホな。ストーリーを作って取材するに決まっているだろ」と答えた。

私と彼は議論を続けたが、それを横で見ていた人は、
「結局、アナリストもジャーナリストも同じなんだと思う」とぽつり。
アナリストからすれば、ジャーナリストは淡々と事実だけを報道してくれる方がありがたい。

ジャーナリストもストーリーテラーだとしよう。
だとすれば、アナリストはジャーナリストの報道を参考にするのは危険だ。
すでにオピニオンが含まれている情報だからだ。

アナリストにはオピニオンが含まれた情報は危険だ。
気づかないうちに調査内容や判断が影響を受けることがあるからだ。
アナリストで駆け出しの頃、経験の長いアナリストに他人のレポートは読むなと言われた。
他人の投資判断は役に立たないばかりか、考える練習にならないというものだ。
一次情報といえども、たっぷり出してのバイアスが含まれているものだ。
しかし、二次情報よりは少ない。

結局は一次情報が安全だし、その後のすべての判断の責任の所在が明確というオチだ。

同じジャーナリストに次のようなことも言われた。

「アナリストの文章はつまらない」

これはアナリストの名誉のためにいうと、アナリストはみんなに読ませるために書いていない。
具体的には、投資家に対してのみ書いている。
投資家は短気な質の人が多い。
結論は短ければ短い方がよいし、そのサポートも簡潔な方がよい。
そこはできるだけ多くの人に読んでもらいたいジャーナリストとは決定的に違う。

ただ、最近私も調査レポートも多くの人に理解される方がよいと考えるようになってきた。
影響力が出るからだ。

アナリストのよさは、データ、数字を基に詳細に議論できることだ。
ここはジャーナリストよりはエッジがある部分だし、そうなければならない。

まとめると、次世代のアナリストは、ナラティブで分析が優れている方がよい。

「ジャー・アナリスト」というのはいかがだろうか。 

 

Google vs amazonのクラウドサービス:吉積礼敏「Google Compute Engine入門」ASCII

グーグルやアマゾンのクラウドサービスの内容を知りたい…。

しかし、身近ではないというのが実際。

その中で手に取った本である。

この本にもある通りグーグルやアマゾンは世界中のリクエストに応じたサービスを提供。

そのために準備したインフラ、データセンタネットワークの余りをGCPやAWSとして展開している。

それ以外のプレーヤーは規模やコストではかなわないはずだ。

地域も選べるし、何を使うかのスペックも選べる。

使い手が知識があるというのが前提だが、サービスとして存在する意義は大きい。

著者である吉積氏が、前書きで触れている点が非常に恐ろしい。

筆者は、以前の職場ではインフラエンジニア・コンサルタントとして…

しかし、2000年代後半になってくると、インフラ領域…判を押したように同じような構成…

ここが勝負どころではない

自身のコアバリューを投げ捨ててクラウドを推進する活動に身を投じてきました。

 まさに、イノベーションの変曲点だと感じますが、皆さんはどう感じるでしょうか。