泉田良輔のブログ

テクノロジーアナリストの100%私見

1997年のブレジンスキーによる地政学の見立ては今のロシア・ウクライナ戦争をそのまま言い当てている

ロシアのウクライナ侵攻の落としどころが見えない。

そこで、ブレジンスキーの「The Grande Chessboard」を読んでみた。

実に今の状況をそのまま言い当てていて、正直怖いくらい当たっている。

プーチン版「Back to the Future」

結論から言うと、プーチンは時計の針を30年前に戻そうとしている。

1991年にまで戻そうとしている。

まさに映画「Back to the Future」さながらの過去への回帰なのだ。

1991年に何があったか。

ウクライナの独立。

そして、ソ連が解体され、CIS(独立国家共同体)創設となったのである。

プーチンはそこまで時計の針を戻そうとしている。

ブレジンスキーのロシアとウクライナの見立て

ここでは、いくつかブレジンスキーの見立てを引用してみよう。

ユーラシアの帝国かアジアの帝国か

ウクライナは、ユーラシアというチェス盤の上で、新たに重要な位置を占めるようになった国であり、地政上の要衝である。

ウクライナが独立国になったこと自体が、ロシアの変化の一因になっているからだ。

ウクライナの分離によって、ロシアはユーラシアの帝国ではなくなった。

ロシアがユーラシアの帝国であろうとするにはウクライナというピースが必要といっている。

ウクライナを失っても、ロシアは帝国の地位を目指すことはできるが、アジアの帝国という性格が強くなり、独立したばかりの中央アジア諸国への進出を図る可能性が高い。

ロシアが「アジアの帝国」はどうかと考える際には必ず「中国」がいる。

その中国を差し置いて、現在のロシアがアジアの帝国を目指すのかといえば、これは疑問。

ロシアからすれば、戦域が広くなりすぎないように、国力を十分に高められるまでは、アジアの帝国は中国に任しておきたいということであろう。

ロシアがウクライナに対する支配を取り戻せば、5200万人の人口、豊富な資源、黒海へのアクセスを手に入れ、ヨーロッパからアジアにわたる大帝国になる手段を回復することになる。

ということで、ウクライナはどうしても必要ということになる。

スラブ民族を代表するにはウクライナが必要

ウクライナの独立によって、ロシア人がスラブ民族全体を代表し指導する神聖な立場にあるとする見方の確信が揺さぶられることになった。

プーチンの狙いと世界が理解できなギャップがまさにここにあると思う。

プーチンは歴史の流れの中で生きているので、現代を生きるほとんどの人にはその思考が理解されない。

ロシアはNATO拡大に反対する姿勢をとっているが、1999年の中欧数か国への拡大は黙認するだろう。

共産主義体制の崩壊後、ロシアと中欧の文化と社会の違いが拡大しているからである。

これに対して、ウクライナのNATO加盟を黙認することは、ロシアにとってははるかに難しいであろう。

これを認めれば、ウクライナがロシアとの運命共同体から完全に脱したことを認める結果になるからだ。

今起きていることはまさにこれ。

NATOとEUのマトリックスが意外とややこしい

しかし、ウクライナが独立国家として生き残るためには、ユーラシアの一部ではなく、中欧の一部にならなければならない。

そして、中欧の一部になるには、NATO、EUと中欧諸国との結びつきに完全に参加しなければならない。

この結びつきをロシアが認めれば、ロシア自体もヨーロッパの一部としての道を選択することになろう。

ロシアがこれを拒否すれば、ロシア自体もヨーロッパの一部としての道を拒否し、「ユーラシア」国家として孤立する道を選ぶしかなくなる。

そして、孤立する道を選びつつあるロシア。

まとめにかえて

ブレジンスキーの見立てを見てみると、プーチンは世界が期待するように簡単に引き下がらないであろうし、30年もの時間の時計の針を巻きに来ようとしている中で、経済がどこまで持つのかは勝負所でああるが、持ちこたえるまで戦い続けるような気がしてならない。

参考文献