ゼロックスPARCと日立中央研究所:キーワードはオープン・イノベーション、スピンオフ、子会社上場
未来をつくった人々―ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明
- 作者: マイケルヒルツィック,Michael Hiltzik,鴨澤眞夫,エ・ビスコム・テック・ラボ
- 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
- 発売日: 2001/09
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ゼロックスのパロアルト研究所(Palo Alto Research Center)はテクノロジーのメッカだ。
は元々はPARCで開発されたもの。
良くある議論だが、ゼロックスはPARCの技術で収益を多く生み出すことはできなかった。
PARCはその後のテックへのインパクトはともかく投資対効果で言えば失敗だったわけである。
PARCの技術やコンセプトはゼロックスではなく外部で活用されたわけである。
ヘンリー・チェスブローは著書の中でゼロックスとスピンオフ10社の時価総額を比較。
(チェスブローは執筆当時はHBS。現在はバークレー)
OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて (Harvard business school press)
- 作者: ヘンリーチェスブロウ,大前恵一朗
- 出版社/メーカー: 産能大出版部
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結果、ITバブル崩壊後でもスピンオフ企業合計はゼロックスの2倍になったという。
スピンオフ企業群はゼロックスでは事業価値を見いだせなかった技術である。
しかし、社外にはその技術をベースにビジネスモデルを書くことができたのである。
研究開発段階の「みにくいあひるの子」は評価が難しいので、研究段階で予算がつきにくい。
結果的に研究者は社内でのプロジェクトを維持できず、社外に切り出されるのである。
そこはアメリカである。
ベンチャーキャピタルがインフラとしてあるので、ビジネスモデルをかければ資金の出し手はいる。
チェスブローはオープン・イノベーションを以下のように提唱している。
「企業内部と外部のアイディアを有機的に結合させ、価値を想像させること」
さらに具体的に言うと、
「企業内部のアイディアと外部のアイディアを用い、内部または外部で発展させ商品化を行う」
ということだ。
アイディアから商品化までが一社で完結しなければオープン・イノベーションということだ。
実はオープン・イノベーションそのものはそれほど新しいものではない。
私の理解では任天堂やファナックも昔から定義される前から同じことを実践している。
事業の成功者は既に行っていることなのである。
さて、日本にパロアルトのような存在はどこだろうか。
ぱっと思いつくのは日立の中央研究所である。
ここから日立に話を移そう。
日立グループはオープン・イノベーションの実践者ではないのかという仮説である。
ただし、そのスタイルはゼロックスのケースとは異なる。
ゼロックスは結果としてアイディアが社外で活用されたオープンである。
日立の場合はグループで活用されたと考えている。
日本の場合はVCのようなインフラが未熟であった。
その役目を果たしたのが親会社(日立製作所)であったのではないかということである。
日立の中央研究所は象牙の塔のようなイメージを持たれている(と思う)。
ところがその反対でオープン・イノベーションを最大限利用しているのではないか。
ゼロックスのケースを読んでいてそう考えるようになった。
日立は今でも多数の子会社が上場している。
(日立の子会社上場数は他大手電気メーカーが取り込んでいる中ではまだ多い)
日立子会社は中央研究所のリソースも使えるし社外のリソースも使える立場にある。
(日立は中央研究所だけでなく、それ以外にもいくつかある)
子会社では中央研究所の基礎研究をもとに子会社内部や外部のアイディアで製品化している。
外部のアイディアというのは子会社の顧客のリクエストなども含んでも良いだろう。
日立製作所ではなく子会社がオープン・イノベーションを実践しているのである。
(製作所がこのシステムをデザインしているならなおのことすごい)
チェスブローの言うようにオープン・イノベーションを採用した方が市場価値が高い。
子会社の収益率や成長率が製作所よりも高かったのはその裏付けだろう。
日立製作所がこの事実を理解しているとすると、子会社を決して売却したりはしない。
むしろ子会社がオープン・イノベーションを起こせる環境を作りをするはずである。
つまり製作所は、
「発行済み株式の過半をとり、子会社には独立して動いてもらうのがベスト」
ということだ。
これはとりもなおさず現状の姿だ。
完全子会社だとオープンではあっても外部もアイディアを持ってきにくいかもしれない。
また子会社もアイディアをとりこむのに主体的になれないかもしれない。
子会社もオープン・イノベーションを実践するには今の上場企業が良いというわけだ。
しかし、今世の中は子会社上場には冷たい。
一番大きいのはガバナンスの問題だ。
正直発行済み株式の過半数をとられていて、ガバナンスが利いているとは言いにくい。
また、過半数も取られていると親会社にTOBをかけられる可能性が高くなる。
その時の値段も親会社の言い値だ。いやだと思っても、結果スクイーズアウトされる。
(キヤノンなんてほとんどプレミアムを払わない)
日立がどこまで戦略的に子会社上場をしているかは分からない。
オープン・イノベーションなんて頭の隅にもないかもしれない。
ただ、結果的にオープン・イノベーションを実践していると思う。
子会社上場はいずれにせよ重要な岐路に立っている。