「財政破綻は回避できるか」:やはりドイツはPIIGSと一蓮托生
- 作者: 深尾光洋
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2012/07/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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深尾光洋教授の「財政破綻は回避できるか」を読み終えました。
ヨーロッパの財政危機の構造を理解するには最適です。
また日本のマクロ環境の復習と財政破綻への道筋の頭の体操ができます。
本書を読んでみて改めて思ったことは、
「ドイツとPIIGSは一蓮托生」
ユーロを通貨とするヨーロッパをドイツとそれ以外の国(X国)と考え、お互いに貿易はユーロ通貨のヨーロッパの中だけで完結しているとします。
教科書にあるように、経常収支と資本収支を加えたものは均衡します。
ここでは現実に即して
ドイツは経常収支は黒字で、資本収支は赤字。
X国は経常収支は赤字で、資本収支は黒字。
と考えます。
ドイツはX国に対してファイナンスしてあげていることになります。
これはドイツが経常収支が黒字である以上変えることはできません。
ということでドイツに紐付いている資金で結果的にPIIGSの国債を買っても仕方がないんです。
ドイツ人がPIIGSにファイナンスしたくなければ、ドイツの経常黒字を減らしなさいということです。
こうした結果になったのは、ドイツは輸出できるビジネスを持っていたということです。
主には自動車や機械をはじめとする製造業です。
自動車などは値が張りますし、日本でも言われるように産業のすそ野が広い。
結果十分な雇用も維持できるわけです。
ポイントはドイツとそれ以外の国と比較して製造業に競争力があったかどうかです。
他国の競合が弱ければ弱いほどビジネスチャンスは増えるわけです。
ユーロという固定相場制ではドイツ製品より競争力があるかどうかで勝敗は決まってしまいます。
ベンツ、BMW、VWに対して、他の国の完成車メーカーですか…。
とっても残念な感じですかね。
スペインやイタリアにも製造業はあります。
革製品とかスーツやシャツなど。
ただ、それでドイツの自動車や機械と比べて一体どれくらい稼げるかということです。
スペインやイタリアというと観光業ですか。
ただ、ヨーロッパで旅行するなら絶対スペインやイタリアというわけでもありません。
ということで、やはり製造業です。
ユーロ通貨のヨーロッパの中でドイツに勝てるモノづくりをできる国や会社…残念ながら思いつきません。
オランダのASMLぐらいでしょうか。
ということで、ユーロは相当の荒療治をしない限り、構造はこのままです。
ハードユーロという考え方もあるようですが、そこに至るまでのプロセスが長そうです。
この本で初めて知ったのですが、天才ローレン・サマーズはユーロの弱点を見抜いていたんですね。
彼の男尊女卑思想はともかくとして、さすがです。
さて、もう一つの大きなテーマの日本の財政はどうなるかということですが、(経済の)成長幻想を捨てて、現実解で対処しましょうということですね。
ただ、この本を読んで驚いたことですが、
「シニア層(50代以上)が日本のネット金融資産の96%を持っている」
という事実です。
ネットの金融資産なので借金を控除した後の数字です。
シニア世代は退職後か間近ということで、ローンは返済済みの家等持つものは持ってしまっているでしょう。
資産の中身は預金や(生命保険などを通じて)国債などを保有しているんでしょう。
ともなれば、デフレが圧倒的に有利です。
本書にも書かれていますが、日本は1994年がらずっとデフレです。
キャッシュの価値が継続的に切り上がってきたわけです。
「持てる者は更に富み、持たざる借金を抱える者はますます貧しくなる構造」
本当の「勝ち組」はシニア世代だったわけです。
消費税増税では金持ちの消費を捕捉しようという狙いもあるでしょう。
しかし、年老いた金持ちは家でじっとして質素な食事を続けています。
車も派手な外車を買いかえる訳でなく、古いクラウンを乗り続けています。
となると貧しいけれども食欲旺盛な若者だけがまた税金をとられることになりはしないでしょうか。
個人的には相続税率を高めに引き上げるとか資産を持っている人には年金の支払いをより引き下げるとかいろいろできると思います。
まあ、現実には金持ちシニア層の両親に金融資産を持たない若い世代が養ってもらっているので、結果としては一緒なんですけどねw