キヤノンの成功はオープンイノベーションと技術資源再配置にあり-「経営は10年にしてならず」
いきなり本当稿からそれるが、「キヤノン」の「ヤ」は大文字であり、決してキ「ャ」ノンではない。ググると、京都大学内の資料すら「キャノン」になっている。会社研究のリテラシーレベルを問われるので気を付けたい。【2016年12月5日更新】
今回は経営を10年単位で判断するという、証券市場にいると3年でも長期という感覚の中で斬新なので手に取ってみた。面白い本だった。
経営成績を判断するのに3年でも短い
さて、この本の主旨は長期政権の会社の方が改善していることが多いということ。
そしてその成功の背景を歴史を振り返ることで探ろうとするものだ。
結論としては、経営の成績を判断するのに3年でも短いということ。
つまりは中期経営計画でも不十分で、四半期決算なんてクソくらえということ。
ただ、一方でオリンパスの事件ように長期政権には後ろ向きの背景があったりする。
オリンパスの件は例外中の例外といわれればそれまでだが。
ただし、長期政権でダメな会社は一体どれくらいあるのだろうかと思いをはせたりするわけだが、それがほとんどだとすると、例に上がったキヤノン、花王、リコー等が例外となる。
キヤノンの本質はオープンイノベーション
さて、今回一番おもしろかったのはキヤノンのくだりだ。
言わずと知れた優良企業だが、いくつかヒントを見つけたような気がした。
まずはじめに、キヤノン自身はオープンイノベーションを志向していることだ。
実はこの考え方は日本企業、特に技術の会社では珍しい。
御手洗冨士夫自身も「独自にこだわりすぎれると遅れる」といっている。
実際、デジカメのCCDもTIからの技術移転である。
特許に関しても、収入源ではなく技術を得るためのクロスライセンスが主目的である。
独自技術にこだわり過ぎて苦境に喘いでいるのが、今の日本の家電メーカーである。
賀来元社長はソニーの井深に「電気に手を出したら失敗しますよ」といわれたそうだ。
皮肉にも井深はソニーの将来を言い当てている。
キヤノンは名実ともにレンズで儲けていることになっている。
ただ、その前段階で半導体も含めデジタル領域で他社よりもすぐれているからそういえる。
因果関係としては、世間で言われていることと反対である。
キヤノンは自前の技術にこだわらないがゆえにデジタル製品で成功している。
リソースの再配分こそ経営者の役割
キヤノンのもう一つの強さは、リソースの再配分のうまさである。
ソニーもパナソニックもリストラ、つまり人員削減に忙しい。
技術の会社がエンジニアにも手をつけているのでもはや末期症状である。
(おかげでエンジニアの転職・派遣あっせん会社は超忙しい)
キヤノンの事業撤退の歴史をみるとうまくエンジニアの再配置をしている。
- パソコン事業撤退後はエンジニアは半導体の回路設計に周りコントローラーを開発。
- FLCディスプレー撤退後はSEDと半導体に異動。
- シンクロリーダーと電卓のエンジニアは事務機の開発に回っている。
結果的には一部の事業撤退によって、その後の収益を出せる事業が強化されている。
他に収益を稼ぐことができる事業があるからこうした再配置ができるのであろう。
しかし、今ソニー、パナ、シャープが行っている施策とは大きな隔たりがある。
三菱電機が携帯電話事業から撤退するときもカーナビ等の無線技術を生かせる再配置があった。
できる会社は技術資源を社内でうまく回せるものだと感心したものである。
キヤノンが優良企業だというのは誰もが知っているが、改めてその背景が分かる。
まとめ
最近気づいたことがある。オープンイノベーションとは、外の情報やトレンドにもしっかりと目を向けますよということで聞こえが良いが、実は社内の研究者を信用していないという経営者の自社への疑いの目もあるのではと考えるようになってきた。
それはそれで悪いことではないとは思うのだが、オープンイノベーションを歌いだした会社はその会社の研究開発力が落ちてきているという目で見てみるのも面白いかなと。