泉田良輔のブログ

テクノロジーアナリストの100%私見

鹿島アントラーズを外部から見るとこう見える。成功の背景と弱みとは

鹿島アントラーズ(以下、鹿島)は、なぜ強いのか、なぜ執拗なまでに勝利にこだわるのか、なぜ選手はいつも渋い顔をしているのか、そして鹿島が強い日本のサッカーで将来の日本サッカーはそれで幸せなのか等、素朴に考えたことはないでしょうか。今回は、自分でも疑問に思ってきたことを公開情報をもとに考えてみます。

鹿島が成功し、支持を受けている背景とは

いきなり、結論めいた話で何ですが、これまで鹿島が成功してきた背景を考える際にポイントとなろう大きく2つの特徴があるように見えます。

そのキーワードは「キリスト教」と「演歌」です。

キリスト教のフレームワーク

ひとつは、鹿島はまさにキリスト教のようにその誕生のストーリーが多くの人を惹きつけたという特徴があると思っています。

「ジーコ」というキリスト教における「イエス・キリスト」のような存在と、強化部長である「鈴木満」氏というキリスト教の普及に欠かせなかった弟子であり伝道者パウロのような存在が今となっては頭から離れません。

鹿島には演歌を感じる

そしてもう一つが、鈴木満氏が著書「血を繋げる。 勝利の本質を知る、アントラーズの真髄」でも自ら指摘しているように、鹿島には東北出身者が多く、ジーコ以降ブラジルサッカーを基盤としながらも、苦しくても頑張れば明日はいいことがあるさというどこかに「演歌」的精神を背景としていて、日本人の一定層の支持を受ける文化を築いているという特徴があげられます。

鹿島の強みとは

Jリーグ開幕前に、「サッカーの神様」であるジーコが日本のサッカーチームでプレーをするということを誰もが興奮を持って迎えたのは記憶するところでしょう。

そしてそのサッカーの神様が日本のサッカーファンの目の前でプレーをし、開幕戦のグランパス戦ではハットトリック。そして試合は大勝。

また、鹿島は開幕戦だけではなく、その後数々のタイトルを獲得していくという展開となりました。

鹿島のスタートとその後の輝かしい歴史は、ストーリーそのものとしては美しく、プロサッカーリーグ黎明期においては、珠玉の存在となったともいえます。

ただ、その鹿島のストーリーがジーコだけで終わらないのが、いまの鹿島がある所以です。

「ジーコスピリット」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。

  • 献身
  • 誠実
  • 尊重

この3つのキーワードなのですが、これは実際にジーコが「この3つのキーワードが俺の精神だ」といったわけではありません!

鈴木満氏が通訳と話をしながら「ジーコが言いたいのはこういうことだよね」と言って決めたのが、この3つのキーワードだそうです。

エッセンスを抜き取る、そしてまとめるというのは一つの才能です。この作業を鈴木満氏が主導したのであれば、それは鈴木満氏の成果です。

また、鈴木満氏は、シンプル化したキーワードを前面に押し出して、ジーコが現場を去った後でも、この精神に賛同できないものは鹿島ファミリーではないという雰囲気にすることに成功しました。

「ジーコスピリット」として、自分たちの(鹿島の)プレースタイルを継続させるために欠かせないエッセンスとしたのであれば、それもまた鈴木満氏の大きな成果です。

鹿島の弱みとは強みと表裏一体

ここまで鹿島の強みを見てきました。そして、その背景にはジーコと鈴木満氏の努力があることを見てきました。

ただ、アナリストの私から見れば、これがそのまま弱みにもなると言えます。

先の著書を見る限りでは、鈴木満氏は強化部長という肩書ながら、実際にはGM(ジェネラル・マネージャー)です。

チームにおける選手の獲得や放出、そして監督の選任も含めて、基本的に鈴木満氏の仕事です。

自分が採用した監督でも、試合を経ることで鈴木満氏の目線とあわなければ更迭されます。

選手もポジションで他に良い選手がいたり、また、若くても成長性などが評価されなければ放出もされます。

たとえチームに残れたとしてもレギュラーとして試合に出られないのであれば(鈴木満氏自身は親心というような感じで話をしてますが)他のチームにレンタルにも出されてしまう。

鹿島のスカウトは優秀だという点を差し置いても、スカウトが勝手に選手を獲得してくることはないはずです。

こうしてみると結局、鹿島はチームとしての戦略、そしてある程度の戦術まで含めて鈴木満氏のチームだということです。

鈴木満氏のサッカーが他のチームのサッカーに通用しなくなった時には、鹿島のサッカーの時代が一旦は終わりを迎えるということになります。

もっとも、鈴木満氏のことですから、自分が抜けたとしても「ジーコスピリット」にはじまる伝統が鹿島の文化を継承するようにするでしょうし、自分以外のエバンジェリストを育成するとは思います。

ただ、余人をもって帰ることができるかといえば、そうではないでしょう。鹿島が歴史的に強かった背景が鈴木満氏ということであれば、今後は誰がそれをカバーするのかという根本的な問題に直面します。

こうした状況はどの世界にもあることですが、安定している状況に見えても極めて大きなリスクをとっているともいえます。

後継者問題はどこの世界でも同じ

鈴木満氏も先の著書でも触れていますが、自分が今後どの程度の期間までGM的なロールを続けることができるのか、ということは問題になるでしょう。

いわゆる後継者問題です。

2016年シーズンにおいては、鹿島は勝ち点が第3位だったにもかかわらず、チャンピオンシップで川崎フロンターレと浦和レッズを破り優勝しました。

いちばん浮かばれなかったのは浦和レッズだと思いますが、当時はCSのシステムだったので致し方ありません。

また、鈴木満氏の著書では川崎フロンターレの勝負弱さも指摘しています。

ただ、あの試合では川崎フロンターレの主力メンバーが怪我で出場できていなかった点も分析家でもある鈴木満氏は触れておくべきでしょう。残念ながらその記載はありませんでした。

もっとも、2016年当時の川崎フロンターレの試合を決定づけることができる選手層の薄さは当然ながら指摘されるべきだと思いますが。

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戦略に永遠という賞味期限はない

一発勝負を得意とすると自負している鹿島ですが、2016年シーズンは勝ち点は首位でなかったことには頭に入れておくべきでしょう。

そして2017年シーズンは川崎フロンターレに最後に勝ち点で並ばれ、得失点差で優勝を持っていかれました。

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鹿島は手堅く試合を決める「ウノゼロ」ゲームに特徴があり、メディアでは評価されがちですが、もっともこれは守りは固く、相手の隙やミスで1点をとるというゲームです。

2016年のCSでも対川崎フロンターレでもそんな展開でした。

試合が始まれば、「ボールを奪いたがる試合展開」ということです。

やや言い過ぎかもしれませんが、俯瞰してみても「受動的サッカー」です。しっかりボールを「奪って」、攻める、という守備から入るサッカーです。

サッカーでは攻撃と守備は表裏一体といいますが、どちらを起点とするかは考え方があります。

後でも触れますが、鹿島の選手は練習でも耐えて耐えて、偉大な先輩を差し置いてレギュラーを獲得し、試合でもその精神面での強さを一点・一瞬において発揮するというコンセプトです。

ですから余談ですが、鹿島のCB(センターバック)は自身の歴史において主役になりえるのです。

もっとも昌子源選手は、守備においてはアクションをとることで試合展開を運用できるといっているので、ディフェンスというマイクロな局面においては、リアクションサッカーから脱却するように意識しているということは付け加えておきます。

資産運用の世界も鹿島スタイルはワークしてきた

サッカーに限らず、資産運用の世界でも、守りに徹して僅差で勝ち続けるファンドマネージャーが長期でも勝ち続けるというのは意外にあります。

ただ、付け加えるとそうした運用そのものに興奮はありません。おそらく、そうした運用をしている人も興奮をするというよりも、地道に作業を積み重ねているというのが正直なところではないでしょうか。

そうした僅差で勝ち続けるという戦略は、いまではAI(人工知能)や勝つことはしないが負けないというインデックスファンドに市場シェアを奪われつつあります。

戦略は永遠に同じで通用するというものではなく、賞味期限があります。

話をサッカーに戻すと、2017年シーズンにおいては、川崎フロンターレは鹿島にホーム及びアウェーの試合でいずれも勝利しています。

また、それぞれの試合で川崎フロンターレは鹿島に対して3点差をつけて勝利しています。

戦略家の鈴木満氏からすれば、川崎フロンターレに対してタイトルを逃したということも悔しいでしょうが、そのタイトルを獲得した川崎フロンターレにリーグ戦ではコテンパンにやられている事実をどう見るかの方が重要ではないでしょうか。

そしてその川崎フロンターレの鬼木達監督は鹿島出身です。鹿島出身である鬼木達監督からすれば、鹿島の長所や短所は十二分に理解していることでしょう。

風間八宏監督では成し遂げることができなかったタイトル獲得を鬼木達監督は1シーズンで成し遂げました。これも鬼木達監督が鹿島出身であったこととは無縁でないような気がします。

鹿島を支える東北出身選手

冒頭に「演歌」というキーワードに触れましたが、鈴木満氏も指摘するように「我慢強い」とか、またそこからイメージできる「耐える」という姿勢があるのはここまで見てきたとおりです。

そして鹿島の選手には東北出身が非常に多いのは特徴的でしょう。もっともGMロールの鈴木満氏も宮城県出身です。

以下の過去も含めて主力の選手たちも東北出身です。

  • 山本脩斗選手(岩手県)
  • 土居聖真選手(山形県)
  • 柴崎岳選手(青森県)
  • 小笠原満男選手(岩手県)

といった具合です。

東北にも、J1のベガルタ仙台などもありますが、茨城という関東地方とと東北地方の中間に位置する場所に鹿島という強豪クラブがあるというのは、優秀な選手の受け皿という観点から日本のサッカーの裾野を広げるためには最適であったともいえます。

ただ、今後も「我慢強い」選手をとり続けるというのをベースにして鹿島が良い選手をとり続けられるかというと、それは分かりません。

鹿島の場合はそこをチームの精神基盤としているので、ちょっとやそっとのことで変更することはないでしょう。また変更しない可能性の方が高いと言えます。

アナリストとして気になるのは、過去は必勝パターンであったものが、そうではなくなった時のカジノ切り方が難しいということです。

いわゆるイノベーターとしてのジレンマともいえるでしょう。

こうしたことはサッカーチームに限らず、様々な産業で多くの企業が経験していることと同じだと思います。

サッカーは結果を求めるものであることは今後も変わりがないと思いますが、そのプロセスとして、「我慢のサッカー」より、「魅せるサッカー」でしょう、という空気になればどうでしょうか。

過去にタイトルがたくさん獲得できたチームというだけでは、良い選手を獲りにくくなることは十分にあり得ます。

2017年シーズンに鹿島からガンバ大阪にレンタル移籍していた赤崎秀平選手が鹿島に戻らずに、川崎フロンターレに完全移籍してきたのは、なんともそんな兆候が起きつつあるのではないか、という気さえします。

日本のサッカーは鹿島が強いでいいいのか

日本のサッカーが「世界」で強くなるためにはどうしたらよいのか。

これはいろいろな議論があってよいテーマですが、2017年からDAZNマネーもあり、Jリーグは「日本からビッグクラブをつくる、つくりたい」という方向に舵を切った感があります。

その際にどこのクラブをある程度想定していくか。

世界を見渡すと、やはり、大都市、またはそれに準ずる都市に拠点があるビッグチームが多いのは事実です。

バルセロナ、マドリッド、マンチェスター…大都市を背景に巨大なスタジアム。

クラブチームは、ブランドやリーグによって放映権などの収入が期待できるものの、ほとんどのチームではチケット収入が収益の柱となることは変わりがありません。

その点に関しては、背景となる都市の人口とは切り離すことができないわけですが、鹿島は不利といえるでしょう。

ユニークともいえるし、(事業環境の競争劣後という意味での)弱者の戦略としては成功してきたケースとしてはアナリストとして注目しています。

鹿島は勝ち続けることで人を惹きつけるという戦略で成功してきたので、今後はどのようにしてビッククラブとなるための展開をするかには注目です。

結局どこがビッグクラブになるのか

残念ながら、サッカーは資金力が勝負だという、血も涙もない話をすると、個人的には、三菱グループの浦和レッズ、トヨタグループのグランパスが最有力候補でしょう。

今後のタイトルの行方で、どこまで富士通の川崎フロンターレ、日立の柏レイソル、パナソニックのガンバ大阪が食い込んでくるかなどがアナリスト的には見ものです。

あえて、2極化を促すような資金配分で、日本からビッグクラブをどのようにして生み出していくのか、Jリーグも面白いステージに入ってきました。

こうした中にソフトバンクが入ってくるとさらに面白いのになと妄想もしています。