泉田良輔の考えたこと

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業績/収益予想モデルの作り方(P/L編)-証券アナリストはこうつくる

意外によく聞かれるのが、「業績(収益)予想モデルはどう作っているのですか」という質問。

私自身も日本生命やフィデリティ投信で機関投資家の証券アナリスト(バイサイド・アナリスト)やファンドマネージャーとして従事してきましたが、実際はそれぞれで誰かに丁寧に教わったわけではないです。エクセルをいじりながら工夫してきた十数年といったところでしょうか。

今回は、モデルのスタートともいえるP/Lから見ていきます。【2016年12月5日更新】

業績モデルのはじめの第一歩-簿記検定2級を取得したい

実は、はじめの第一歩は簿記検定2級の会計を理解しているかどうかというところが重要です。会計の理解なくして業績モデル、ひいては業績予想モデルは作ることはできません。

では、簿記検定2級レベルはどの程度かというと、商工会議所の定義では以下の通りです。

高校(商業高校)において修得を期待するレベル。*1

ですので、高校を卒業している程度の教育を受けていれば確実に習得できるレベルです。確実にマスターしましょう。

実際に試験は受けなくてもよいので、受けて合格するレベルにまでもっていきます。

ちなみに商業簿記と工業簿記の2領域があります。それぞれ基礎的なテキストでじっくり勉強します。

>>みんなが欲しかった 簿記の教科書 日商2級 商業簿記 第5版 (みんなが欲しかったシリーズ)

>>みんなが欲しかった 簿記の教科書 日商2級 工業簿記 第3版 (みんなが欲しかったシリーズ)

その後、実際の試験を受けるイメージで過去問などに取り組んで手ごたえが出てくればそれでよし、また実際に資格として取得したいということであれば2級程度であれば履歴書に記載しても恥ずかしくはないので、合格しておいてもよいかと思います(1級は合格にはそれなりの時間が必要)。

>>日商簿記2級 網羅型完全予想問題集 2016年度

これで基本的な会計処理とPLとBSについての概念が身に付きます。

モデルって何?

モデルとは何か。実際の作業をイメージしやすいのはモデルよりもモデリングでしょうか。ロングマンの現代英英辞典を見ると以下の様に表現しています。

the process of making a scientific or computer model of something to show how it works or to understand it better

もう、本当にこれです。

なので、モデリングで目指すべきは、対象物の動きを把握することです。間違えていけないのは些細なポイントにフォーカスし過ぎて全体の動きを間違えることです(多くのアナリストは些細なデータポイントを追うあまり大きな動きを見落としがちです)。

 ただし、モデリングをする際に静的なモデルだけを作っていてはいけません。

静的モデルと動的モデル

静的モデルとは一瞬にフォーカスをして将来と連動していないモデルです。

過去の決算データは入手できますから、自分の業績モデルに過去実績と入力します。これはファクトなので、いちいち過去同士を連動させる必要は(基本的には)ありません。

問題は、将来の予測部分です。

将来の予測に関しては過去から自分が前提としている事柄と連動させる必要があります。

また、注意をしたいのは先ほどのモデリングの定義でも指摘したように動きをよりよく把握するためのモデリングであって、細部を分析するためのものではありません。何が自分が欲しいためのファクターなのかを見極めることが肝心です。

動的なモデルを作れるか

システムズエンジニアリングをなぞっていたら、アナリストのモデルも同じだなぁと。

動的モデルがどのようなものかを知りたい方は、以下の書籍が大部ですが参考になります。時間の許す方は読んでみてください。

>>Business Dynamics: Systems Thinking and Modeling for a Complex World [With CDROM]

時間がない!英語はちょっとという方は、以下のものでも大枠はつかめます。ただし、Business Dynamicsがあれば、必要ない程度の内容です。

>>本質思考: MIT式課題設定&問題解決

より具体的にということであれば、以下の本もありです。

>>システム思考をはじめてみよう

モデリングは理解すること

それでは、アナリストがどののようにしてモデルを作っているかを見ていきます。

基本は小学生でもできてしまいます(賢いエクセルが計算してくれます)。

ただ、ポイントはモデルが動学的なモデルになっているかどうかです。

私の経験上、本当に使えるモデルは極めてシンプルなものです。

Modeling = Understanding という世界観です。

頭がこんがらがっているやつのモデルは複雑です。

わかっていないやつのモデルも複雑です。

したがって、第3者が見て、すぐに手を入れられません。

不思議とモデル見ると、モデル製作者の性格が見えてくるのが不思議です。

自分がその企業について一番知っているなら自分で作りましょう。

モデルを外部に任せるのはアナリストとして大事な接点を自ら失うことになります。

モデル制作の実作業

さて、モデルと呼ばれるものは次の3つを大きくは含みます。

  • バランスシート(BS)
  • 損益計算書(PL)
  • キャッシュフロー計算書(CF)

一般的に、モデルはPLから作っていきます。

BSはPLができCFを計算した後の結果です。

フローの蓄積がストックという概念です。

PLは大きくは、

  • 売上
  • 費用

という2つの大きなサブシステムからなります。

売上高

売上はタンジブル(有形)なモノを売っているのであれば

  • 価格
  • 数量

に分けることができます。

「こんな簡単な企業はそんなにねーぞ」というつっこみが来そうです。

ところが、ベンチャーだとままあります。

(小型株アナリスト時代は自分が数字が把握できて安心できたこと多かったです)

こんな会社ばっかりだったらいいのですが、実際はそうもいきません。

規模が大きな会社であれば、主要な製品や事業の昨年の実績に対して

「価格はどうですか?価格競争厳しくなってません?」

「数量はどうですか?業界はこうですけど、御社は?シェアは上がってます?」

なんて、IRの方や役員に取材して確認します。

時には、製造業であれば、受注残、工場の稼働率なんかも参考になります。

(ただ、在庫がたまっていれば、意味ないんですけどね)

会社も細部は当然ながら教えてくれないません。

【コラム】

ちなみに、日本の上場企業は開示しすぎです。

情報をもらったアナリストも全部活用できていません。

無意味な開示は海外の競合企業に情報を与えるだけです。すぐにやめましょう。

さて、入手可能な開示データをもとに事業や製品の売上を予想します。

会社の規模が大きくなるほど、売上を予想することは難しくなります。

売上予想を開示させる東証は鬼!予想通りの着地になれば発行体は神!

GDPの伸びがとかいうような要素も入ってくるので、雲をつかむような状態。

インフレ率も、為替も考慮に入れると…とか考えているとキリがありません。

(これがコングロマリットディスカウントの原因だと思うのですが)

 

さて、本題に戻ります。任天堂みたいに、海外での販売本数とか為替レートを入れられるのであれば、入れます。

データ会社の開示するデータを入れれば、気休めにはなります。

やりたければ、入れれるだけ入れたらいいと思うんです。

しかし、売上は開示情報を継続的に追っていけるということが重要です。

一時的に入手可能な情報を入れてしまうと、次につながりません。

モデルの大事な点は、そのデータに継続性があるかどうかです。

さて、製品、サービス、事業ごとに積み上げていって全体の売上が出来上がり。

費用

次に費用ですが、ここには

  • 製造費用
  • 営業費用

もしくは

  • 変動費
  • 固定費

みたいなくくりで数字を認識します。

(細かくは単体であれば、有価証券報告書にのっているので見てみてください)

たとえば、製造にかかわる材料費などは変動費。

工場で常時必要な従業員の費用は(製造費用・原価)の固定費として認識します。

粗利益を予想するには限界利益率を過去の数字からはじき出して使います。

今回の売上が昨年度から比べてどれくらい増えているかをはじいて、その率をかけます。

これで粗利が把握できます。

販売管理費は、広告宣伝費、物流費、製造以外の人件費なんかが入ってきます。

物流費は変動するものでしょうし、人件費や広告宣伝費はそれほど変動はしません。

売上とこれら変動しそうな項目にダイナミクスを持ち込んでも可

ただ、実際はマネジメントがある程度コントロールするので、想定通りいくかどうか。

設備投資による償却なども想定できますし、このあたりは売上より安心して作れます。

粗利がでて、販売管理費が分かれば、営業利益が出ます。

営業外収益・損失

営業外は、どれだけ資産を持っていて利子があるか、借金で利払いがあるかなどをみます。

ただ、会社が営業利益と経常利益を開示していればその差額を聞いてみるのも一つ。

(開示されていない、営業外の数字を知っていてもルール上ダメなんですけどね)

特別損益も同じです。

さて、ここまでで税引き前利益がわかりました。

税金

肝は、税率です。

地方税と国税を分けて考えないといけない時もあります。

ここはちゃんと税金対策にまじめに取り組んでいるとか繰延税金資産を詰めるとか大事。

法定税率通りの会社もありますし、オランダとかシンガポールを使って30%台とかもあります。

一番大事なのですが、残念ながら会社に聞くほかないですね。

少数株主持分

さて、残るは少数株主持ち分。

これは子会社の最終損益に持分以外の比率をかけて合計してください。

税金と少数株主持ち分を差っ引けば、最終利益が出てきます。

ここまででると、次のCFとBSが作れるようになります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

なんだ、こんなに簡単なのかというツッコミはあるかと思いますが、ここから皆さん独自色を出して行くはずです。

ただし、あまり複雑になり過ぎないよう。複雑なモデルは外国人は嫌いますね。

システムズエンジニアリングの考え方は輸入ものなので、そちらも見てみるとよいかと思います。モデリングの参考になります。

>>【参考】Visualizing Project Management: Models and Frameworks for Mastering Complex Systems

分析をする際、私はユーザーベース社のSPEEDAを使っています。日本だけではなく、世界中の企業データが取れて便利です。