泉田良輔の考えたこと

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「なぜボーイングは、生き残ったのか」

なぜボーイングは、生き残ったのか (えい文庫 162)

なぜボーイングは、生き残ったのか (えい文庫 162)

なぜこんな面白い本が文庫で細々売られているのかは分からない。

非常に示唆に富む内容をふんだんに含んでいた。お薦め。

さて、タイトルへの解は単なる「偶然」、適当な「知恵」とリスクをとる「勇気」ということ。

今でこそ燦然と輝くボーイングも実は何度も経営の危機に直面している。

それはボーイングの競合も同じである訳だが、少なくともボーイングはその勝者だ。

著者の分析の力も借りると、ボーイングの成功の条件は、

  1. 莫大の研究開発費用がかかる新機種に取り組み続ける
  2. 研究開発は自前のリソースに重点を置く
  3. 創業者から経営者に経営継承がスムーズに行われる
  4. 読める(収益見通しの高い)ビジネスを作る

といえそうだ。

1.はどの業界にも言えるが、設備投資・研究開発競争に躊躇すればそこからは奈落。

いまや世界の旅客機市場はボーイングとエアバスがぼぼ独占している。

もちろんボンバルディア三菱重工という存在もあるが大型旅客機といえば上の2社。

これはNAND、CPU、ファンダリ、HDD、鉄道、原発プラント、ガスタービン、OSも同じ。

世界で勝負する商品は世界で1位になるという気がないと、それは即事業の死を意味する。

非常に厳しい世界。

現在の航空機ビジネスは実機ができる前から注文が入る状態。

ロンチングカスタマーという見込客がいて航空機メーカーも設計に本腰が入る状況。

デザインの段階から顧客の興味をどれだけ惹くことができるかが勝負だ。

航空機は一旦売れ始めるとドミノ倒しのように売れていく。

それはキャリアが航空機の1台あたりのメンテナンスの費用とリスクが低減するから。

しかも、航空機をデザインして量産できるまでには数年かかるから流れは一気には変わらない。

負けて収益が悪化してもそれに耐えうる自己資本がなければ続けられないビジネスだ。

さもなければ買収されてしまう。

世界でインフラ事業を担うには圧倒的な自己資本が必要。

現在日本ではインフラ事業だけが残された最後の主戦場みたいな論調だが、肝が分かっていない。

本当に世界で勝ち残るには圧倒的な自己資本が必要。

日立、東芝、三菱(重工)のいまの自己資本ではなんとも心もとない。

2.は意外感がある。

が、チェスブローも航空機メーカーはクローズドからオープンへの変化の瀬戸際と指摘している。

ただ、現在はボーイングの787なんて気持ちの悪いくらいオープンソースだ。

航空機の開発スタンスはいつ変わったのだろうか?

777からだろうか?

しかし、昔は航空機産業はクローズド・イノベーションの産業だったようだ。

ダグラス社はカリフォルニアの立地からカルテックの研究開発力を当てにして失敗したらしい。

なぜダグラスはボーイングに対して失敗したかは詳しく書かれていない。

航空機は当時はオープンイノベーション・オープンリソースではなかったらしい。

一方、ボーイングはシアトルという立地にあるために、自前の研究体制が必要だった。

著者はこれが過去のボーイングとダグラスの成否を分けたと言っている。

3.はボーイングが早くからボード体制になったのに対して、ダグラス社は創業家が影響力を持ち続けた。

特にダグラス・ジュニアは愛人を側において、役員からの情報も彼女を通させたようだ。

結果、優秀なエンジニアはボーイングン流れ、その後ダグラスは新規種の事故が頻発する。

理由はともあれ、製造業でエンジニアが離れていく企業は行く末は見えている。

ダグラス・ジュニアは1957年に父親から会社を引き継ぐ。

1966年に開発を開始したDC-10は1970年に就航。

しかし、DC-10はデビューから9年で3度の墜落事故をおこす。

ダグラスがダメになった根本はこのマネジメント体制が理由と思える。

三品教授は、創業者・ファミリーが経営に影響力がある方が良いという結論を出していた。

しかし、航空機産業の場合は別のようだ。

4.は737のことを指している。

737のシリーズ化により、メーカーの開発コストを最小限に抑え、キャリア側も運用費を効率化できる。

ここで生まれたキャッシュフローは新たな機種の開発に回すことができる。

また、ボーイングはダグラスと違い防衛事業の比率が高いことも経営が安定した背景のよう。

これは競合のエアバスの親会社EADSも防衛事業がポートフォリオにはいっているのと同じ。

まあ、各国・地域とも軍事を担う企業をつぶすわけにはいかない。

ボーイングもダグラスの自滅としても結果として目に見えない支援を受けたともいえる。

こうしてみてくると、航空機産業というのがグローバル産業の先行ケースかもしれない。