泉田良輔のブログ

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「パナソニックの選択」からみるパナソニックのクラウド戦略

パナソニックの選択――「環境で稼ぐ」業態転換の未来

パナソニックの選択――「環境で稼ぐ」業態転換の未来

パナソニックに「精通している」という外国人コンサルタントによる本。

はっきり言って意味不明で、なんでこんな本が世に出るのかが不思議だ。

本人の話が与太話なのか、翻訳が悪いのかもわからない。

話の半分以上はコンサルタントの勝手な歴史観とパナとは関係ない話。

パナ経営陣とは距離感が近かったようだが、こんな人物を使う意味があるのか疑問。

さて、内容だが面白いことに「クラウド」に相当重点が置かれている。

以前CTOだった野村淳二氏(元パナソニック電工)がパナソニックのプラットフォーム戦略を語ってくれたとしている。

コンサルが勝手にこれを拡張してクラウドとしているのか、野村氏がクラウド戦略を語ったのかは分からない。

ここはどちらの意見なのかははっきりしてほしい。

一方、パナソニックから開示されている資料を見る限りここまで「クラウド」を強調した資料を目にしたことはない。

パナソニックがクラウドを本気で取り組もうとすればどうすればよいか。

まあ、はじめに考えられるのは次のようなものだろう。

白物家電にセンサーを取り付け、家電で消費される電力の情報を吸い上げる。

SEGなるゲートウェイを通じてその情報をデータセンター(DC)へ送り、効率的な電力消費をシミュレーションして返す。

ここではじめに問題になるのは、パナがどこまでクラウドを扱うかだ。

アップルやグーグルのように自前のDCを持つのか、それともそれはアウトソースしてしまうのかだ。

このコンサルの言っている内容だと、自前でDCを持たなければやれない規模の話をしている。

そういったインフラに近いITのリソースをパナがもっているとは聞いたことがない。

やりたければやればよいと思うが、規模と時間軸を考えるとIT企業を買収などを通じて傘下におさめる等の手法も必要だろう。

個人的にはそれ以前に白物家電のデファクトになる方が先だと思う。

幸い日本の省エネ技術は群を抜いている。

インバーターの技術だけではなく、それに必要な半導体であるパワーデバイスも国内で調達できる。

メカトロであるモーターを制御する技術が一夜でまねできないのがいまだある競争力だ。

空調、洗濯機、冷蔵庫だけでも世界一のポジションを築き上げることは可能なはずだ。

プラットフォーム戦略はそれからである。

アップルだって、iPhoneが売れなければプラットフォームなんて語れない。

魅力あるハードが売れてこそである。

アップルの強さは、「魅力ある単品」を数種類持っていることにある。

個人的にはアップルはもっともハードウェアをまじめに考える会社である。

伊達にDesigned by Appleと言っているわけではない。

デバイス会社出身のエンジニアを相当引き抜いて、どういった組み合わせが一番イケているかを常に吟味している。 

しかし、アップルといえども、失敗作品はいくつかある。

Apple TVもコンセプトは良いと思うが、思うように普及していない。

やはり競争力のある、魅力ある商品を普及させて初めてその先を語れる。

パナがいう「家まるごと」というのも、これは結果であって原因ではない。

強い商品があるからこそ、消費者は「結果として」同じメーカーのロイヤリティが増す。

それだけのことだ。

この本でも触れられているが、パナはB2Bでプラットフォーム戦略を展開したいようだ。

確かに、仕組みでコンビニでの消費電力料金が下がれば、オペレーションでキャッシュがたまる仕組みになる。

ここは同意だ。

しかし、ここでもはじめに圧倒的に強いハードがあればより説得力が増すであろう。

B2CだろうがB2Bだろうが、ハードの競争から逃げるとクラウドが具現化しない。

グーグルもこれまでネットワークの中で生きてきたが、既に自分へのアクセスを増やす仕組みづくりに一生懸命だ。

アンドロイドというOSもそのひとつであるし、ネクサスという端末もその表れだ。

1990年代半ば以降、電化製品がデジタル化し、EMSが登場することでハードの価値は大きく下がった。

しかし、インフラのネットワークのアップグレードが進むことで、ネットワークへの入り口としてのハードの価値が再び上がり始めている。

しかしそれは、世界で2社程度の勝者がいるだけで、後は皆敗者という厳しい世界に。

使い手のハードの魅力を徹底的に磨けば、ハードの付加価値だけでなく、その先のプラットフォーム・オペレーターとしてのうまみも取ることができる。