泉田良輔の考えたこと

ノマドアナリストが株式投資, テクノロジー, エネルギー, FinTech, メディア, サッカーをテーマに.

「さよなら!僕らのソニー」のその後

さよなら!僕らのソニー (文春新書)

さよなら!僕らのソニー (文春新書)

著者の立石泰則氏はもともとすごいジャーナリストだなとみてました。

圧倒的な取材量で、まさに現場を見てきたような語り口です。

きっかけは、日米コンピューター戦争を記した「覇者の誤算」です。

覇者の誤算―日米コンピュータ戦争の40年 (講談社文庫)

覇者の誤算―日米コンピュータ戦争の40年 (講談社文庫)

内容を簡単に言うと、日本のコンピューターはIBMに骨抜き?去勢?されたのです。

IBM産業スパイ事件が起き、日立と三菱電機はほぼ降参。

一方、富士通は戦い続けます。

(富士通の事情は詳しくは雲を掴め―富士通・IBM秘密交渉を参照)

米国のFBIを使ってオトリ捜査をするという荒業もどうかなと思います。

しかし、日本の電機メーカーがIBM互換機でビジネスをしていたというのがそもそもの間違いです。

ここではプラットフォーム・オペレーターはIBMです。

ゲームのルールを決めることができるのはIBMです。

そのプラットフォームの参加者にすぎない日本勢がこうした事態に陥る可能性は否定できないでしょう。

さて、話がそれました。

その立石氏ですが、ソニーの栄枯盛衰の歴史を記しています。

特に圧巻なのはトップマネジメントに複数回直接取材で来ている点です。

立石氏はソニーが堕ちていった犯人を断定することなく、時系列で淡々と記しています。

私が読む限り、出井社長のメディアへの露出度が高かったため大きく批判されますが、

本当のA級戦犯は大賀氏の気がしてなりません。

出井氏はどちらかというと大賀氏の敗戦処理班です。

コロンビアピクチャーズの問題、事業拡大に伴う多額の借入など大賀氏が原因です。

ただ、大賀氏一人に責任を押し付けることはできません。

不思議と誰も口にしませんが、晩年の盛田氏も経営判断力は鈍っていたと思います。

コロンビアピクチャーズ買収は盛田氏の肝入り案件です。

出井氏は大賀氏の敗戦処理に徹していれば良かったものの、自分の色を出そうとして、さらに傷口を広げてしまいます。

食品や飲料の事業ならともかく、エレキのメーカーにEVAは向いていません。

新人のアナリストでも収益予想モデルを作れば、この事実に3秒でわかります。

結果、ソニーで新しい技術・商品に挑戦する芽を摘んでしまいました。

また、ソニーのその後のコーポレートガバナンスにも問題を残します。

ソニーは2003年に委員会等設置会社に移行しています。

取締役会にエレキは素人同然の他業種の役員を連れてきて、支配権を握ろうとします。

出井氏がその目論見に失敗するのは良いでしょう。

ただ、この仕組みは後継者のストリンガー体制でも悪用されます。

指名する側とされる側のなあなあの関係が続いてしまうのです。

また、株主がどんなに社長を批判しようとも、指名委員会が選んだからしょうがないみたいな「雰囲気」もありました。

これらは明らかに出井氏の負の遺産です。

余談ですが、出井氏の著書迷いと決断 (新潮新書)にこんなやりとりが書かれています。

「ハワード(ストリンガー)だけは取らない方がいい。後悔するぞ。」

この発言をしたのはメディア王マードック氏です。

さすがです。忠告は守るもんだと思います。

この本には、ソニーがどうしたらよいかなどという面倒なことは書かれていません。

そこで私が少し未来予想図を書いてみます。

エレキの事業はテレビの売上が伸びず、赤字を垂れ流したままリストラは続きます。

テレビの売り上げはむしろ減るかもしれません。

そうなれば惨事です。

運命をかけた携帯事業もアップルやサムスンを前に存在の意義すら問われます。

外野が戦略がないじゃないかとどんなにいったところで彼らには関係ありません。

長期の戦略よりも固定費をカバーできる「明日の」売上が欲しいのです。

それだけです。

しかし、勝てない商品の売り上げは必ず下がります。

また減った売上の分だけリストラがされます。

いまだ潤沢なキャッシュが尽きるまで続きます。

ハリウッドも新しい技術を開発できなくなったエレキのメーカーに用はありません。

ハリウッドの興味はいかに自分たちの露出や価値を上げてくれるテクノロジーを利用できるかだけです。

ソニーエレキの不振が続き新しいモノが出てこないと、彼らから出ていきたいと言い出しかねません。

そうなれば渡りに船なので、カエサルのものはカエサルにということでアメリカに戻してあげましょう。

ストリンガーはCBS出身なのでバイアコムあたりに押し付けてはどうでしょうか。

そして、唯一安定しているのは金融事業だけです。

これは出井氏の唯一の置き土産といってもよいでしょうか。

ただし、ソニーは現在は発行済み株式のマジョリティを持っているにすぎません。

子会社である金融事業のキャッシュに手をつけることはできません。

ソニーがさらに窮地に追い込まれれば、いずれ金融事業をすべて取り込むでしょう。

ソニーホールディングスという持ち株会社にして金融事業をぶらさげるのです。

(ソニーホールディングスは成長のない事業とブランドの管理を担うことになります)

持ち株会社は金融事業から上がってくる利益を配当としてすべて吸い上げるでしょう。

その配当をソニーホールディングスの株主に配るのです。

ソニーホールディングスの株主とは今のソニーの株主かもしれません。

(まあ、そこまで持っているかどうかは定かではないですが)

エレキ事業は持ち株会社にぶら下がる形にし、拡大をすることなくひっそりとしているはずです。

そして「ソニーは昔テレビを作っていたんだよ」とたまに話題になる程度です。

私にはそんな画が見えます。