泉田良輔のブログ

テクノロジーアナリストの100%私見

強いチーム・強い組織の条件とは何か-「個」vs「組織」

強いチームや組織を作りたいというのは経営者のみならず小さなチームの将来に責任を持つ者にとっては目先の目標ともいえますし、長期の理想ともいえる難しいテーマです。今回は強いチームや組織作りに成功した人を中心に取り上げ、どのような共通項があるのかを見出してみたいと思います。【2016年8月17日更新】

強いチームや組織に必要なこと

強いチームや組織とはどのようなものかを考えることが多くなった。強いチームとはどのようなものなのであろうか。

一口にチームや組織とはいっても規模が異なれば考える次元も違うのであろう。しかし、チームや組織の規模の大小を置いておけば、強いチームや組織に必要なのは、なんといっても「個」が局地戦で負けないということが必要なのではないかと思う。

つまり、「個」が競争優位を確立できているかにあるかと思う。「個」が負けなければ、その集合体であるチームも強いという発想である。

「個」が強いとはどういうことか

では、「個」が強いとはどういうことであろうか。「個」がチームの一員であるとすれば(つまり「個」は「個」であるが組織として戦っているという前提)、組織としての戦略はありながらも、その戦略に基づいて「個」が局地戦で優位な状況を築くことができているということである。そのためには「個」が属するチームや組織の戦略を理解し、その戦略をもとに「個」が自分が対峙する局地で戦術に落とし込んで勝率をあげることが必要である。

もちろん、チームや組織のリーダーが戦略や時には具体的な戦術を「個」に示し、浸透させることが必要だろう。

しかし、後で述べるチームや組織としての「全体」としての武器となる優位性が確立できていないチーム組成の初期フェーズでは「個」の実行能力に依存せざるを得ない場合が多い。そのため、初期フェーズのチームや組織は「個」の力に依存することは前提となりがちであり、チームや組織が生存確率を上げ続けるためにも、「個」の競争優位を上げ続けることが必須となる。

「個」の競争優位を高めるには

では、「個」の競争優位を引き上げ続けるにはどうしたらよいであろうか。これは、「個」に刺激を与え続け「個」の潜在能力を引き上げるか、もしくは「個」同士を比較し継続的に優位性のある「個」に換え続けなければならない。

余談だが、今年で就任5年目を迎える川崎フロンターレの風間八宏監督は、川崎フロンターレの戦力強化は常にこの発想が前提にあるといってよい。

たとえば、中村憲剛、大島僚太というようなチーム戦術を考える上で鉄板のボランチのポジションに、原川力というような大島と同世代(U-23)の有力な選手を同ポジションに連れてきており、ポジション争いをさせている。

また、同チーム内でも、これまでディフェンダーとしての出場機会の多かった谷口彰悟といった選手もボランチを希望するなど、新規と既存選手相交えてのポジション争いとなっている。

もちろん、中村の年齢を考えれば、ポスト中村という選手を育てていかなければならないが、基本は「個」の競争優位を引き上げるために、競争を持ち込んでいる。

Jリーグで3年連続得点王の大久保嘉人も川崎フロンターレでは欠かせない選手ではあるが、上で指摘したように、競争に勝ち続けた結果が今の結果ということもできる。

風間監督の「個」についての考え方は次の本が参考になる。

>>「 1対21 」 のサッカー原論 「 個人力 」 を引き出す発想と技術

余談ついでに監督の資質について読んでおいて損がない本がある。それが以下の本である。

>>辻秀一「スラムダンク勝利学

スラムダンク勝利学では、コーチの条件として以下の5つのポイントをあげている。

  • 理解力(コンプリヘンション)
  • 正しいものの見方(アウトルック)
  • やさしさ(アフェクション)
  • 魅力的な個性(キャラクター)
  • ユーモア

いずれもなかなか十分に持っているといえる人も難しいだろうが、特に上の2つは基盤ともいえる条件だと思う。

「個」の役割はマニュアルを作り業務を標準化させること-無印良品

無印良品の業績を大きく回復させた松井忠三氏の言葉で印象的なのは、現場の人間がマニュアルを作ることこそが仕事だというのだ。

現場を良く知るものがマニュアルを作り、業務を標準化し、またその修正を行うというものだ。確かに現場手動に修正領域までを任せることができれば、不完全なマニュアルだとしてもアップサイドが期待できる。

マニュアルをトップが現場に渡すのではなく、現場から全員に共有をするというものだ。そうすることで仕事のスキルやノウハウが共有ができ組織全体のスキルとなるというものだ。

>>無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい (ノンフィクション単行本)

ただし、ひとつ疑問なのが現場にマニュアルを作ることができる能力のあるものが果たしてどれくらい存在するかということである。マニュアルを作る、業務を標準化させるというのは極めて次元が高い作業のように自分の経験でも思うのだが、そこは無印良品がどうクリアしたのかを知りたいところではある。

「個」から「全体」優位への脱却

チームや組織が小さいうちは、そうした「個」の競争優位に依存することが多いが、その規模が大きくなるにつれ、必ずしも「個」の競争優位に依存しなくてもよい(意図的も含む)状況となる。

それは、チームや組織としてのリソース(人やカネ、モノ)が増えることで、「個」の強さを引き出すためのチームや組織の仕組みづくりによる「全体」の優位性を生かした展開もできるようになるからだ。「全体」の優位性というのは、チームや組織のブランドかもしれないし、製造業でいえば家内制手工業的なアドホックな生産設備ではなく、量産を前提とした大規模な生産設備になるかもしれない。

一方で、「全体」に目を向けるのには永続的に競争優位のある「個」に依存することができないということもある。有能な「個」も無限にいるわけではなく、チームや組織の規模が大きくなれば、「個」に依存しない仕組みづくりを考えなくては事業がスケールしないことも多い。

私はビジネスモデルはバリューチェーンのデザインとその運用手法という定義をしている。ビジネスモデルというのは、「個」への依存度を極限にまで減らし、「全体」としての競争優位を確立できたものを指していると考えている。なんでもかんでも商売の仕組みをビジネスモデルと呼ぶのはいかがなものかとも考えている。

ビジネスモデルの強さというのは、仕組みに強さがあるのであって、誰がその仕組みの一部になろうとも、モデル全体の競争優位が変わらないというような代物であると考えている。

強いチームや組織に必要なのは、チームや組織組成初期フェーズの強い「個」による局地戦の勝利やその勝率をいかにうまく「全体」の勝率にまで転換していけるかがカギになると思う。逆にそうしたシフトができなければ、「全体」としての生存確率を引き上げることはできず、「全体」には戦略がないこととなる。

「全体」として弱い「個」を刺激する方法-オープン・イノベーションの本当の意味

「個」から「全体」への転換が必要なのはわかったが、それに挑戦し続けて失敗してきた歴史の積み重ねがいまだ、というような経営者も多いであろう。それに対してどうすればよいかという答えがオープン・イノベーションだ。

オープン・イノベーションといえば、社外のリソースを有効活用して、自社の成長ポテンシャルを引き上げるといえば聞こえが良いであろう。しかし、実態を言えば、「社内が本当にどうしようもなく使えないので、外部に頼らざるを得ない」というのが近いのではないだろうか。

結局、「個」の競争優位を高めることで一度は「全体」の仕組みづくりに成功しても、「全体」の競争優位を高め続けることは難しい。新しいことに挑戦するにしても、基本的にはまた「個」の競争優位がどこにあるのか、何をどうするのかを考えなければならない。突き詰めて考え、社内にリソースがないとなれば、外部にそのリソースを求めなければならない。それがオープン・イノベーションだ。

こうしてみると、チームや組織がどのステージにいようと、強い「個」は永遠に必要で、優秀な人材を「人財」という経営者も多いが、本当にその通りだと思う。

まとめ

いかがだったでしょうか。強いチームや組織を作るためのヒントは見つかったでしょうか。いくつかの例を見てきましたが、個の能力をどこまで認めるのかという議論は残りますが、「個」発の変化がいずれにせよポイントになるのかなと思います。

つまり「全体」はやはり「個」に依存しているのであり、「個」を生かすのには「全体」、つまり組織を動かすための仕組みづくりであり、それが経営者の仕事ということになりそうです。頭でわかっても実行するプロセスをまた考える余地は大きそうです。